アルカリ金属をドープして形成される
C60の二次元重合体

Fig. 1 Fig. 1. (Click to enlarge.) Molar heat capacity of Li4C60 and Na4C60, together with 1D and 2D pressure polymerized C60 and pristine C60.

Fig. 2 Fig. 2. (Click to enlarge.) Low-temperature heat capacity of Li4C60 and Na4C60.

Fig. 3 Fig. 3. (Click to enlarge.) Low-temperature heat capacity of Li4C60 and Na4C60. The former shows similar heat capacity as in 2D pressure polymerized C60, the latter shows rather large contribution.

分子結晶のC60は257.6 Kで相転移を示し,低温相では分子配向の秩序化が進行しますが,86.8 Kで残された乱れが凍結するガラス転移が観測されています(本レポート No. 13 (1992年),研究紹介15). この分子結晶を高温高圧で処理すればC60分子が重合し,しかも処理条件によって次元性の異なる(1D, 2D, 3D)ポリマーが作成されることがわかっています. それらは準安定相として室温で取り出せ,これまで室温以下の諸性質が調べられてきました. また,面白いことに,常圧下で再び高温処理すると元の分子結晶に戻ることもわかっています. 一方,C60にアルカリ金属をドープすれば(高圧下でなくても)C60ポリマーが得られることもわかってきました. とりわけ今回取り上げるLi4C60とNa4C60では,2次元ポリマーが実現していることがわかっているのです. ただし,同じ2次元ポリマーであっても結合様式に違いがあるかは確定しておらず,あるとすればどのような物理的性質に違いが現れるか興味深いところです. われわれは以前に,高温高圧下で作成された1次元ポリマーと2次元ポリマーについて熱容量測定を行い,分子結晶を含め,その違いを低温熱容量に見いだしました(本レポート No. 20 (1999年),研究紹介6). それは,分子間に生成した共有結合が格子振動に大きな影響を与え,とりわけ,C60分子全体の回転的振動に大きな差が見られることがわかったのです(A. Inaba et al., J. Chem. Phys. 110, 12226 (1999)). 今回の目的は,Li4C60とNa4C60の低温熱容量を測定することにより,同じ2次元ポリマーで結合様式の違いが現れるかどうかを調べることでした.

試料(Li4C60とNa4C60)はいずれもウメオ大学で作成されたものです. あらかじめX線回折およびラマン散乱実験を行い,2次元ポリマーといわれる試料が確かに生成していることを確認しました. 構造の次元性を区別するのに,この2つの手法が有効であることがわかっています. なお,両試料とも水分と酸素を避けるため,真空中もしくは高純度アルゴン気体中で扱いました. 熱容量測定には,断熱型熱量計(3 K – 350 K)およびPPMS(0.4 K – 100 K)を用いましたが,PPMSによる測定では磁場中(1 Tおよび9 T)での測定も行いました. 測定に供した試料量が少なく,断熱型熱量計による測定では(Li4C60で約0.25 g,Na4C60で約0.11 g)データのバラツキは大きいものでした. これに対して,PPMSによる測定では通常の試料量(Li4C60で約6 mg,Na4C60で約3 mg)を用いることができました.

熱容量測定の結果をFig. 1および2に示します. 純C60(分子結晶のみならず1次元および2次元のポリマー結晶も)のモル熱容量と比較すると,高温域で,アルカリ金属原子の寄与がDulong-Petit則に合っていることが分かります. 一方,低温熱容量は試料ごとに大きな違いが見られ,同じ2次元ポリマーであっても結合様式の違いが反映された結果と考えられます. Fig. 3は極低温熱容量を比較するためにCp /T 3をプロットしたものです. Li4C60は純C60の2次元ポリマーに近い熱容量を示し,Na4C60ではアルカリ金属の存在を考慮しても大きな熱容量を示していることがわかります. これは,構造研究により指摘されている結合様式の違いと矛盾のない結果になっています. Na4C60についてはごく最近,別の試料についても測定を行いましたが,やはり同様の結果を得ています. 2 K以下の極低温での過剰な熱容量寄与については,磁場中での熱容量測定の結果から磁性不純物の存在を疑いましたが,その可能性は少ないようです.

本研究は,スウェーデンのウメオ大学Sundqvist教授らとの共同研究です.

(稲葉 章)

発 表

A. Inaba, P. Michalowski, B. Sundqvist, and T. Wågberg, the 14th International Symposium on Intercalation Compounds (ISIC) (Seoul, Korea) P8TU-9 (2007).
A. Inaba, Y. Miyazaki, P. Michalowski, T. Wågberg, and B. Sundqvist, the 62nd Calorimetry Conference (Hawaii, USA) oral #28 (2007).
稲葉 章,宮崎裕司,P. Michalowski,T. Wågberg,B. Sundqvist,第43回熱測定討論会(札幌),1C1430 (2007).

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