分子性の化合物は基本構成単位が分子という広がりをもったユニットであるため,結晶中の格子欠陥が少ないクリーンな系が構築される. しかしながら,こうした物質の結晶は溶液中から析出させるため,数多くの多形が存在し,大型結晶の育成や均一試料の大量合成が困難である. mg オーダーの少量のバルク試料で絶対値を伴う測定ができる熱測定法として知られる緩和法は,その利点から物性研究の分野で広く使われている. またカンタムデザイン社の汎用物性測定機器である PPMS (Physical Properties Measurement System) Model-6000 の熱測定オプションに組み込まれているため,熱測定を専門としない研究者の間にも普及し,世界各国から数多くの熱測定に関する論文が出版されている. 緩和法による熱測定は,これまでも断熱法,交流法,各種熱分析法と対比させて日本熱測定学会のワークショップでも何度か紹介されてきた. しかし,緩和法そのものを集中的に議論する機会はあまりなく,またその特徴や測定上の問題点を研究会のかたちで考えることは殆どなかった. また,市販装置のソフトウェアーまかせの解析に頼ると,条件によっては折角のデーターを意味のないものにしてしまう危険もあるため,原理や実例を見ながら一度,議論しておく必要を感じ,当センターから中澤,宮崎が発起人となり,筑波大学の山村泰久さんにもご協力頂き熱測定学会のワークショップを開催することになった. 構造熱科学シンポジウムと前後するかたちで7月24日(金)に大阪大学豊中キャンパスにおいて行った. 平日にも関わらず,写真1のように大学,企業,研究所から41名の参加者があった.
日本カンタムデザイン(株)の上村彰氏,産総研,アイカンタム(株)の白川直樹氏,物材機構の橘信氏,東邦大理の西尾豊氏を講演者として招待し,緩和法とその周辺技術,微小試料測定について様々な角度から紹介を頂いた. センターからは,稲葉章先生,D2の鈴木晴君が,PPMS を用いた液体試料を測定するためのセルの開発,PPMS を用いた1次転移の観測に関する開発研究の試みについて講演し(写真2),また中澤は希釈冷凍機を用いた極低温での測定についての報告を行った. 緩和法は,低温での固体試料の測定についてはあまり問題はないが,室温以上の高温,各種熱分析装置とのつなぎの温度領域ではやはり注意が必要な点も多々ある. そのあたりで測定に対するある程度スタンダードな判断基準をつくることも必要かもしれない. 一方で,できる限り少量試料,微小単結晶での外場を制御した環境下での測定は試料作成技術の進展とともに今後,益々重要になってくる問題である. 本ワークショップで議論した点を踏まえ,センターでも,今後の展開をはかって行きたい. ワークショップ終了後,千里中央で懇親会が行われ,大学の研究者だけでなく,標準研究や会社での研究などに携わっておられる方々と様々な角度から熱測定に関する意見交換をすることができた.
写真1.ワークショップの様子(理学研究科F棟608室)
写真2.D2鈴木君の講演