2009年8月30日から9月5日にかけてイタリアのローマ大学で,第6回 International Discussion Meeting on Relaxations in Complex Systems (IDMRCS2009) が Ngai 博士(アメリカ海軍研究所)および Ruocco 教授(ローマ大学)の組織のもとで開催されました. 当センターからは,稲葉教授,中澤教授,鈴木の3名が参加し,稲葉教授は「Calorimetric and Neutron Scattering Investigations on a Two Dimensionally Ordered Structure of Ice Crystallized from Undercooled Aqueous Solutions」というタイトルで,中澤教授は「Thermodynamic Properties of Spin Liquid States and Spin Glass States in Molecular Compounds」というタイトルでそれぞれ招待講演を行いました. 鈴木はポスター発表を1件行いました.
IDMRCS は,複雑な凝縮系で普遍的に見られる緩和現象や拡散ダイナミクスの解明を目指し,様々な分野の研究者が一堂に会して議論を行うことを目的とした国際会議です. 第1回 IDMRCS は 1990年に開かれ,以来3〜4年に一度の頻度で開催されてきました. 過去5回の会議は,いずれも Ngai 博士の組織のもとで地中海地方を中心に開催されています(1990年,2001年:ギリシャ,1993年,1997年:スペイン,2005年:フランス). 第6回となる今回も地中海沿岸での開催となり,「緩和現象(Relaxation)を扱うには,参加者がリラックスできるラテン地域がよい」というコンセプト(ジョーク?)が踏襲された形となりました. 参加者は,前回の600人を大きく上回る700人程度で,4〜6つのパラレルセッションで行われた口頭発表(分科会32,発表総数370件以上,全て招待講演)は,朝8時半から夕方の7時半過ぎまで続けられました. ポスター発表は310件でした. また,昨年度で定年退職された東京工業大学の阿竹教授への Honorary Session(主催:小國教授(東工大),Schick 教授(Rostock 大学))も行われ,多くの熱測定関係者の講演も行われました.
講演内容は,分科会が30を超えることからもわかるように,非常に多岐にわたりました. 私は,ガラス状態に関する講演と水のダイナミクスに関連する講演を主に聴きました. ガラスの研究では,ガラス転移付近での緩和ダイナミクスやボゾンピークと呼ばれる低エネルギー励起を巡る議論が相変わらず主流なようです. 一方,水の研究では,制限空間内の水の挙動を調べる研究がより大きな注目を集めているようでした. この分野をリードしている研究者の多くが日本人研究者であることも知りました.
今年のローマは例年になく暑く,快適にリラックスできる会議とはいきませんでした. 特に,空調の効かない会場では講演中は蒸し風呂状態となり,参加者の不評を買っていました. ポスター発表は, “ポスターセッションの時間” というものが設けられておらず,(ポスター会場が蒸し暑い建物の廊下であったという要因も加わって)ポスターを貼るだけで終わってしまうケースが多く見られました. 「ポスターを2日間ずっと貼っておけば, “ポスターセッション” という特別な時間を設けるよりも個別に充実した議論の時間が取れるであろう」というのが主催者側の主旨でしたが,あまり上手く機能していなかったようです. もっとも,個人的には,共同研究者でもあるポーランドの Massalska-Arodź 教授にポスター発表を聞いていただき,1時間以上議論に付き合っていただけたので,発表を行った成果は十分にありました.
次回の IDMRCS は,Tamarit 教授(カタルーニャ工科大学)の組織のもとで2013年にスペインで開催される予定です.
Rettorato; the main building of Sapienza University of Rome where many invited lectures were given.
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