Annual Report of Osaka University:
Academic Achievement 2008–2009
の論文100選に選ばれる

毎年,大阪大学では全学の投稿論文の中から優秀な100編の論文を選んで, “Annual Report of Osaka University: Academic Achievement” の中で紹介している. 今回は,名誉なことに以下の二つの論文が “Annual Report of Osaka University: Academic Achievement 2008–2009” の論文100選に選ばれた(http://www.osaka-u.ac.jp/en/research/annual-report/volume-10/100_select_paper/science01.html). 我々の論文がこのようなかたちで評価されたことは大変光栄なことであり,今後研究を続けていく上で大いに励みとなるものである.

“Magnetostructural Study of 2-(4-N-tert-Butylaminoxylphenyl)benzimidazole”, Y. Miyazaki, A. Inaba, M. Sorai, P. S. Taylor, and P. M. Lahti, J. Phys. Chem. B 112, 8144–8150 (2008)

本論文は,理論においてスピンの量子効果が顕著に現れることが予想されているバイレイヤー構造を分子間水素結合を介して構成している標題の有機ラジカル磁性体 PhBABI の磁気構造が,実際にこの興味深いバイレイヤー構造であるか否かを熱容量測定を通して実験的に示すことに成功した点について述べたもので,米国の Lahti 教授のグループとの共同研究である. 磁気的なバイレイヤー構造を実験的に示した論文は我々のグループしか出していない点で,非常に価値のあるものとなっている.

(宮崎 裕司)

“Thermodynamic Properties of a Spin-1/2 Spin-Liquid State in a κ-Type Organic Salt”, S. Yamashita, Y. Nakazawa, M. Oguni, Y. Oshima, H. Nojiri, Y. Shimizu, K. Miyagawa, and K. Kanoda, Nature Phys. 4, 459–462 (2008)

二次元の三角格子上に存在するスピン(S = 1/2)系の基底状態に関する議論は30年以上に渡り研究されてきたフラストレーションの有名な問題である. 本論文は,量子性の極めて強い Mott 絶縁体の有機電荷移動塩を対象に極低温までの熱容量測定を行い,温度に比例するスピン励起が存在することを示した. これは,スピンの自由度がフラストレーションによって秩序を形成せず,量子液体としての多体状態を作っていることを明確に示す結果である. さらに,65 mK の低エネルギー領域までギャップが形成される兆候が見られず,Fermi 液体のような連続励起が生じていることが強く示唆され,スピン系の基底状態の議論に新たな知見を与えた.

(中澤 康浩)

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