構造熱科学研究センターの発足を心よりお慶び申し上げます.
日本のみならず世界における「熱力学研究」の中心的存在であるセンターが,装いを新たにしてスタートしたことは,「熱量測定」と「熱分析」に関わる学会としてなによりの喜びです.
独立法人化後の大学のあり方が大きく変化し,ともすると脚光を浴びる研究テーマに大学全体が向かう傾向があるなかで,物理化学の基本法則である熱力学を基盤とした研究を実施する,新たなセンターの発足を決断された大阪大学の高い見識に敬服いたします. 構造熱科学研究センターの発足は,センターの前身である化学熱学実験施設,ミクロ熱研究センター,分子熱力学研究センターで研究と教育に携わってこられた先生方の努力が実を結んだ結果でもあります.
化学熱学実験施設を設立された関集三先生は,我が国における熱力学研究の基盤を築かれました. さらに「熱量測定」と「熱分析」の研究者間の交流の場として1965年に第1回熱測定討論会を開催し,1969年に日本熱測定学会の前身である熱測定研究会を結成されました. 先生は,熱測定討論会で若い人達の研究発表に耳を傾けられ,先生の薫陶を受けた人も少なくありません. 私も日本熱測定学会の様々な活動を通じて,関先生から多くのことを学ぶ機会を得た一人です. 熱測定討論会は2009年に45回を数え,毎年100件を超す研究が発表され,物質の熱力学的研究の広がりを改めて認識させられます. 熱測定討論会への若い人達の積極的な参加は,今後もこの分野の発展を期待させるものです. 日本熱測定学会で世代と所属を超えた交流が活発であるのも,関先生の教えが実践されてきた証であると感じています.
構造熱科学研究センターの3部門は,これからの科学の中でも大きな展開が期待される魅力的な分野です. 分子系から複雑系へ,平衡からダイナミックスへと研究分野が広がることで,研究に参画する人も国内外を問わずに増えるでしょう. これまでに築き上げてきたセンターの国際共同研究の規模も拡大することでしょう. 多くの優れた研究成果と人材を輩出してこられたセンターの,これからの研究と教育の両面で果たす役割は益々大きくなると思います.
「阪大化学熱学レポート」が30号を迎える機会に執筆の機会を得たことは,読者の一人として光栄に感じています. 毎年送られてくるレポートに掲載されている研究紹介は,「熱分析」を利用している私にとって示唆に富むものです. バックナンバーを Web で読むことが可能なので,新しい読者にとってもセンターのこれまでの成果に触れる機会となります.
構造熱科学研究センターの研究と教育のこれからの成果を大いに期待しております.
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