筑波にて開催された第21回IUPAC化学熱力学国際会議(ICCT-2010)が終了後,大阪の千里ライフサイエンスセンターにおいて,2010年8月8日(日)~8月10日(火)の3日間,第2回構造熱科学国際シンポジウム(ISST-2010)が開催された.当センターの主催である.この会場は,1996年に開催された第14回IUPAC化学熱力学国際会議(ICCT-96)と同じである(本レポート, No. 17参照).幸いにも日本熱測定学会の共催をはじめとして,大阪大学グローバルCOE「生命環境化学グローバル教育研究拠点」の共催支援および関西エネルギー・リサイクル科学研究振興財団による開催助成を受けることができた.本シンポジウムの第1回は,昨年度改組により「構造熱科学研究センター」が発足したことを記念して大阪大学で開催したものである(本レポート, No. 30参照).
ICCT-2010のポストコンファレンスツアーとして,筑波から京都を観光して大阪に至るツアーが設定され,それには30名を超える参加者があったものの,実際にISST-2010に参加したのは約半数であった.シンポジウムには合計10ヵ国から45名の参加があり,菅宏先生,徂徠道夫先生にも参加していただいた.招待講演(8件),一般口頭発表(13件),ポスター発表(18件)が行われた.種々の凝縮系を対象として,その構造と熱力学的性質の相関に関する理論的ならびに実験的な研究について報告が行われ,集中的な討論を行った.5分野からの招待講演は以下の通りであった.
<高分子・液晶の構造熱科学研究>
1: H. Yoshida (Tokyo Metropolitan University), Alignment Control of Hexagonally Packed Nano-Cylinder of Block Copolymer and Its Application as Nano-Reactors
2: J.-P. E. Grolier (Blaise Pascal University), Thermodynamic Control of the Effects of Gas Pressure on the Isotropic Transition of Amphiphilic Liquid Crystalline Diblock Copolymers
<相転移の構造熱科学研究>
3: M. E. Minas da Piedade (Universidade de Lisboa), Polymorphism and Solvatomorphism in 4'-Hydroxyacetophenone: Structure and Energetics
4: B. Sedunov (Russian New University), The Equilibrium Structure of Real Gases
<熱力学データベース>
5: M. Frenkel (National Institute of Standards and Technology), Using State-Of-The-Art QSPR Methodology for Reliable Prediction of Critical Constants
<地球科学における構造熱科学研究>
6: S. Nakashima (Osaka University), Structures and Thermodynamic Properties of Interfacial Waters and Their Roles in Water-Rock-Organic Interactions on the Earth’s Surface
<磁性物質の構造熱科学研究>
7: Y. Hosokoshi (Osaka Prefecture University), Specific Heat Study of an Organic Triradical BIPNNBNO Having S = 1 and S = 1/2
8: M. Nakano (Osaka University), Heat Capacity Calorimetry as a Spectroscopy
-- A Case of Spin Cluster and Kambe Coupling Scheme --
会議ではパラレルセッションを排し,当初から少人数ならではの落ち着いた雰囲気を期待したこともあり,和やかな雰囲気の中にも非常に活発な議論が行われた.講演時間についても,予め20分~40分まで講演者に自由に選択してもらってからプログラムを作成した.初日のミキサーを兼ねたポスターセッション,2日目のポスターセッション本番,その夕刻に千里阪急ホテルで行われた懇親会を通じて,参加者全員が一度は互いに会話を交わしたのではないだろうか.大きな国際会議では味わえない雰囲気を享受できたためか,参加者は大変満足な様子であった.外国からの参加者の中には,終了後に広島を訪ねる人,長崎を訪ねる人などがいた.帰国後もそれぞれ感謝のメールをいただいた.滞在中の猛暑だけが問題だったようだ.