7月18日から23日の日程で,第65回カロリーメトリーコンファレンスが米国コロラドスプリングスで開催されました.会議の主催はミズーリ大学の Micheael T. Henzl教授で,プログラムのchairはラトガース大学の D. P. Rameta教授,地元のコロラド大学コロラドスプリングス校のGordon Kresheck教授の丁寧なアレンジによって実りある会議になりました.開催場所のGlen Eyrie Conference Centerは,何年か前にもCALCONが行われたことがある場所で,特にシニア層に好評だったということもあり,今回もう一度同じ場所で行うということになったようです.初めて行く私にはもちろん,CALCONの常連の先生方も,この時期に大自然の中で過ごす数日は非常にリフレッシュされていたようです.筑波で行われるICCT 2010の直前ということもあり,参加者は多くはありませんでしたが,55件の講演と12件のポスター発表があり,溶液,生体物質,製薬,凝縮系科学,熱力学データベースなど各分野で活発な議論が行われました.
日本からの参加者は,例年よりかなり少なく6名ですが,8月の会議の準備で非常にお忙しい中,阿竹実行委員長,齋藤事務局長が参加され,日本でのICCT開催をアピールされました.カロリメトリーコンファレンスでは,毎年卓越された熱力学の研究を行った研究者に賞を出しています.今年度のHugh M. Huffman Memorial Awardは,Bristol大学のProf. C. J. Wormaldが受賞され,「Enthalpies of Mixing up to the Critical Region」という内容の記念講演が行われました.また,40歳以下の若手に贈られるSunner Memorial Award は,ドイツのKaiserslautern大学のS. Keller先生が「Pushing the Limits of Isothermal Titration Calorimetry」という内容の講演を行い,受賞しました.優秀な学生に授与されるGiauque賞は,今年も4名が受賞し,その中の一人に東工大の修士課程の市川さんが選ばれました.
毎年,CALCONのCondensed Matterの分野では固体電子物性の研究者が多く参加し,活発な議論がされます.今年も世話人のDr. E. Colineau博士の努力で,希土類を含む金属間化合物で生じる異常な金属相や超伝導相に関する研究が一つの大きなテーマとなりました.その分野で著名なフロリダ大学のR. G. Stewart先生や,LosAlamos国立研究所のD. C. Thompson先生らが参加され,お話を聞くことができました.Stewart先生は早い時期から緩和法による熱測定を行っており,また有機超伝導体の測定にも経験がある方です.今回,お会いできるのを楽しみにしていました.阪大からは中澤1名の参加で,「Thermodynamic Study of Organic Frustrated Systems that Show Novel Spin Liquid Behaviors」という内容の講演を行いました.我々が扱うのは有機分子のπ電子でありますが,f電子がつくる面白い現象とある意味関連のある現象が多数あることがわかりました.アメリカの電子物性の研究者は非常に熱力学的な実験を大事にし,新しい現象に対しても必ずThermodynamicな特徴を質問します.その意味でも原点の大切さを改めて認識しました.Plenaryセッションが行われたホールは歴史的な雰囲気のある立派な部屋でしたが,パラレルセッションになると小さい部屋になり,ディスプレイが小さく,前の方に参加者が集まらざるを得なくなり,その分充実した議論ができた気がします.写真はE. Colineau氏に頂いた講演の時のものです.
21日の水曜日は,午後からExcursionがあり,4000 mを超えるPikes Peakの頂上に登山鉄道で一気に登り,コロラドの雄大な景色と,その後のDinnerとコメディー演劇を全員で観賞しました.
残念ながら,個人的な予定もあり,最終日の早朝の飛行機で移動することになり,会場を朝4:00に出発しました.電話で呼んだタクシーが少し遅れ気味だったので屋外に様子を見に出ると,丁度来たタクシーの運転手に「Be careful! Bear!」と注意されました.深夜や早朝の暗いうちにうっかり歩くと,徘徊している熊に襲われることがあるとのことで,あらためて大自然の中にいることを意識しました.次回のCALCONは来年の6月12-17日にハワイのTurtle Bay Resortで,日本の熱測定学会との共同開催で行われます.