文部科学省の特定領域研究で阪大の理学研究科宇宙地球科学専攻の川村 光 先生が代表をされている「フラストレーションが創る新しい物性」とカナダの CIFAR のフラストレーション分野の研究者のジョイントシンポジウムがカナダのバンクーバの Coast Plaza Hotel で2011年5月28日から31日の日程で開かれました.28日は,同じ会場で,前の週に行っていた CIFAR の Quantum Materials 分野の研究者とのジョイントセッションとなり「Aspects of Frustration in Strongly Correlated Electrons and Spin System」というテーマのもと,5名の講演者による,一人1時間の全体講演がありました.spin ice,spin liquid,quantum criticality などについて,科学的なバックグランドも含めた非常に詳しい話を聞くことができました.翌日からのMEXT/CIFARジョイントセッションでも,量子スピン系の最新の話題が沢山紹介され,世界の第一線の研究者が集まってホットな議論になりました.
フラストレーションは,反強磁性の秩序構造が幾何学的な構造が阻害要因になって形成できなくなる様な二次元の三角格子やカゴメ格子,さらに三次元的な構造のパイロクロア格子などの低温での磁性を議論する際にさけては通れない問題です.スピン間に強い相互作用がありながら磁気転移をおこせず,結果として低温で量子力学的な基底状態を形成され,様々な奇妙な現象があらわれます.こうした現象一般を広く含んだかたちで,使われる言葉にもなっています.フラストレーションの研究は,30年以上も前から,阪大で盛んになされており,現在でもその先導的な研究は世界でも注目されています.そのようなフラストレーションの科学は近年,物質合成や実験手法の進展,さらには電子の強い相関によって生じる様々な量子現象とあいまって,固体物性の大きなトピックスになっています.このシンポジウムでも,理論と実験の境を超えた非常に根本的なところからの議論が多くなされていたように思います.中澤は,第二日目の午前中に,このフラストレート系の中でも,実際に低温でスピンが液体状態になっていると考えられる有機化合物の熱測定について報告しました.
講義日程がうまく調整できず,現地での滞在時間をあまりとることができなかったのが残念ですが,バンクーバは,すぐ近くの港に大きな船が出入りし,陸と海がつくる雄大な景観をもつ美しい街でした.さすがに,世界一住みやすい街に選ばれるだけのことはあると感じました.また,個人的なことですが,大学院時代の同級生で博士取得後渡米し,現在カナダの大学にいる友人に偶然ながら再会することができたのも大きな収穫でした.
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