平成23年度の公益信託分子科学研究奨励森野基金の表彰者にセンターの兼任教員である山本貴助教が選ばれました.森野基金は,日本で初めて「分子科学」という名前を提案され,この分野を先導されてこられた故森野米三先生が,「科学研究の振興に最も有効なことは若い研究者を鼓舞し,自由な発想のもとに研究をしてもらうことだ」という考えに基づき設立されたものと聞きます.毎年100万円の助成金が有望な分子科学の若手研究者に授与され,助成金ではありますが,賞としての側面を強くもっております.山本氏の受賞対象になった研究のテーマは,「分子性固体における電荷整列状態と超伝導の研究および新しい応力発生法の開発」というものです.分子性の電荷移動塩の中で,電子が反発しあうクーロン相互作用によって電荷同士が斥け合い,異なる電荷をもつ分子が規則的に配列する「電荷秩序状態」が起こります.山本氏は,特定の分子内振動をプローブとして使って,固体中の分子の電荷量や揺らぎや,秩序化した場合の電荷量等に関する定量的な情報を得る研究を展開するとともに,こうした分光実験に延伸やシェアストレスのような特異な圧力印加をするためのユニークな技術開発を組み合わせた総合的な分子性固体研究を目指しています.これらの実験によって,山本氏は,超伝導,金属,電荷秩序絶縁体の関係を説明するモデルを提示しています.分子性固体の様々な電子状態を理解するためには,分子レベルでの電荷の不均衡やダイナミックな特徴を捉える必要があります.山本氏は,熱力学的なエントロピーや磁性,伝導性のようなマクロな視点と分子レベルのダイナミックの双方から物性現象に迫るスタンスで研究に取り組んでおり,その成果が評価されての受賞だと考えます.
若手奨励森野基金を歴代に受賞した先生方は,現在,分子科学の分野を牽引されている方々であり,山本氏にも是非,分子科学の一つの重要な分野である「固体凝集相の物性研究」を大きく発展させてもらいたいと思います.8月31日に,東京の学士会館で授与式が行われ,写真はその時のものです.賞金の100万円は森野先生のご意向で,制約をもうけず自由に研究に使うことが出来るとのことで,こうした研究資金は非常に貴重であると思います.山本氏の研究が今後,益々発展することを期待しています.