山下智史博士が
強磁場フォーラム三浦奨励賞を受賞

平成21年度3月に理学研究科化学専攻の博士後期課程を修了し,博士(理学)の学位を取得した後,理化学研究所の加藤分子物性研究室で基礎科学特別研究員をしている山下智史君がつくばの物材機構で開催された第5回強磁場フォーラムにおいて三浦奨励賞を受賞しました.この賞は,日本の強磁場研究を中心になって進めてきた東大物性研究所の三浦登先生の,「日本の強磁場研究を担う若手研究者の育成したい」という希望のもとにつくられた賞であり,受賞者は毎年の強磁場フォーラムで表彰されます.山下君の受賞対象になった課題は「微少量熱測定による分子性固体における量子スピン液体と周辺相の系統的理解」というもので,阪大の大学院在籍中からスタートし,さらに理研で継続して進めている分子性電荷移動塩で生じたスピン液体状態の熱的な検証と,その起源を追求するために行った一連の熱力学研究です.山下君は阪大の博士前期課程(受託研究生),博士後期課程在籍中に,東北大学金属材料研究所の強磁場超伝導材料研究センターの共同利用制度を使って,20 Tの強磁場超伝導磁石と組み合わせて使用できる大型の希釈冷凍機に,阪大で作成した緩和型の熱容量測定セルを組み込み,強磁場低温下での熱測定を可能にしました(この記事については,阪大化学熱学レポート2006,No. 27,p. 54 を参照ください).強磁場下のスピン系の研究で有名な,金研の野尻浩之教授,大島勇吾助教のグループに大変御世話になりながら磁場中の温度較正などを丁寧に行ったあと,ブランク測定,測定系のセットアップなど進め装置の立ち上げ,実験装置の構築に成功しました.その後も,年に数回,仙台へ通い,スピン液体物質に特徴的なギャップのない熱励起が17 Tまでの強磁場をかけてもこわれることがないという実験的な証拠をつかみました.山下君のこれらの磁場下,低温熱容量の仕事は Nature Physics や Nature Communications といった注目度の高い雑誌に掲載されており,その点も高く評価されての受賞になります.

 山下君は2007年の CalCon で W. H. Giauque 賞を受賞していますが,物性研究,特に磁性の分野での権威のある賞を熱測定を主体とした研究でとることができ,センターとしてもうれしい限りです.本人にとっても大きな自信になったと思います.これをステップにさらに飛躍して欲しいと思います.

(中澤康浩)


Miura Encouragement Award

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