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  モデル錯体合成の研究について

 
金属蛋白質の心臓部である金属活性部位に関して、結晶構造や分光学的性質、磁性、ルイス酸性、酸化還元電位や、基質との反応性などが部分的に明らかにされ ていますが、そのエッセンスに基づく分子設計により、モデル化合物の合成を行います。このように金属活性部位に触発されて生じた作業仮説を、化学的なシ ミュレーションを組み立てて検証し、そこに働く原理を理解します。対象とする反応を、酸素活性化と酸素発生、ならびに水素、窒素、二酸化炭素などの重要性 の高い低分子量物質の変換と、それらに伴う電子移動反応として、生物無機化学の観点から研究を行います。

現在遂行しているテーマには以下のようなものがあります。
二核銅 (TypeIII銅)を含む酵素による酸素活性化と基質の酸化反応機構の解明
マルチ銅酸化酵素による酸素還元とマンガンクラスターによる酸素発生の反応中間体種の検討
光エネルギー変換機能を持つ遷移金属錯体の開発
炭酸ガスを還元する金属酵素活性中心のモデル化合物の合成



二核銅 (TypeIII銅)を含む酵素による酸素活性化と基質の酸化反応機構の解明

 タコやイカなどの軟体動物や、節足動物の血液中で酸素運搬を行うヘモシアニンという蛋白質には、TypeIII銅と呼ばれる二核銅中心が含まれており、そこに酸素分子が結合します。酸素が結合した状態で銅は二価となるため、上記の生物は「青い」血液を持っています。

  同じくTypeIII銅を持つ酵素であるチロシナーゼは、多くの生物が保有しており、チロシン残基のフェノール基に水酸基を導入して、メラニン色素のもと になるド―パやド―パキノンを生成します。人が日焼けするのもメラニン色素のためですが、切ったリンゴやジャガイモが茶色くなったり、キノコが茶色いのも メラニン色素がつくられるためです。チロシナーゼの触媒する反応の初段階は、ヘモシアニンと同様に、酸素分子とTypeIII銅中心が結合して、酸化活性 種を生成した後に基質であるチロシンと反応します。

・TypeIII銅と酸素との反応



 本研究ではモデル化合物で酸素が結合した反応中間体種を再現し、動植物や菌類、バクテリアなどに広く分布しているチロシナーゼの反応機構を明らかにすることを目的としています。


  ・イカのヘモシアニン

  
  ・ヘモシアニンの構造

   Hol, W.G. et al.,
      Proteins 19, 302 (1994).

  ・チロシナーゼの構造

      M. Sugiyama et al.,
      J. Biol. Chem. 281, 8981 (2006).
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マルチ銅酸化酵素による酸素還元とマンガンクラスターによる酸素発生の反応中間体種の検討

  ラッカーゼという酵素は、基質としてフェノール誘導体であるウルシオールを酸化し、重合させることで漆を生成する反応を触媒します。またCueOという酵 素は、体内に取り込んだ鉄(II)イオンを基質として酸化し、鉄(III)イオンとして、体内の鉄の運搬体であるトランスフェリンに鉄イオンが結合し易く するという役目を持っていて、身体の鉄分調整に一役買っています。

 このラッカーゼやCueOはマルチ銅酸化酵素と呼ばれる仲間であり、電子移動部位として働くTypeI銅と、酸素を水まで還元する役目を持つ TypeII銅 +TypeIIIの三核銅中心を蛋白質中に内蔵しています。この三核銅中心部位は、基質の酸化反応で余った電子を酸素分子とうまく反応させて、無害な水に する処理をしています(これに失敗すれば、細胞毒と呼ばれる活性酸素が生体内で発生してしまうことになります)。

 本研究では、特にマルチ銅酸化酵素の酸素還元能に注目し、モデル化合物を合成して、その反応機構の解明と、その機能を人工的に再現することを検討しています。



 高等な緑色植物では、葉緑体のチラコイド膜で光合成における明反応を行っています。明反応では光エネルギーを使って、水から電子を引き抜いて酸素分子を 放出すると同時にプロトン濃度勾配を生じ、化学エネルギー分子であるNADPHとATPを生産しています。 水を光のエネルギーで分解して酸素分子とNADPHを生成することは、すなわち水と光で燃料ができるということであり、光合成の酸素発生部位 (Oxygen evolving complex = OEC)は非常に注目されています。

 そこで本研究では、このOECの持つマンガンカルシウムクラスター(Mn4Caクラスター)に注目し、そのモデル化合物を合成してその性質を調べ、水から酸素を発生する機構を原理的に解明することを目指しています。

・マルチ銅酵素の構造

     R. Huber et al., J.Mol.Biol. 230, 997 (1993).     

・酸素還元の推定機構

     E. I. Solomon et al. Dalton Trans. 3921 (2008).




・PSIIとOECの構造


  Umena, Y.; Kawakami, K.; Shen, J.-R.; Kamiya, N.
  Nature 473, 55-60 (2011). PDB code: 3ARC
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光エネルギー変換機能を持つ遷移金属錯体の開発

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炭酸ガスを還元する金属酵素活性中心のモデル化合物の合成

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