専攻の概要
化学専攻の研究概要および化学専攻各講座の研究内容紹介
化学専攻の研究概要
私たちがふだん観察している自然現象には化学変化によるものが多くあります。 複雑な生命現象ももとをたどればいろいろな化学物質の反応や相互作用に帰着します。 化学は「物質の合成、構造、性質ならびに物質間の相互作用や相互変換を研究する学問」です。 日頃私たちが目にする物質は、気体、液体、固体などいろいろな状態で存在します。 これらの物質はまた、互いに混じり合う、水と油のように混じり合わない、反応して別の物質に変化する、 さらには他の物質の変化を促すなど、多種多様な性質をもっています。 目で見て実感できる物質の性質(その中には有用な特性や有害な特性も含まれます)の奥には、 それよりはるかに小さいスケールでの物質の個性、すなわち原子や分子の性質があります。 化学は巨視的スケールでの性質を微視的な観点から研究する学問であるとも言えます。
私たちは、衣食住、医薬、交通・通信手段その他あらゆる場面で化学を基礎とした生産物を日常的に活用しています。 最近では、情報記録材料や超伝導物質など、新素材と呼ばれる機能性物質の果たす役割が非常に大きくなっています。 これらの新素材も化学の基礎に基づいています。また化学物質が係わる環境問題などの、 大規模な経済社会活動がもつ負の側面の解決には化学者の参加が必要です。
このように、化学は人々がふだん考えている以上に身近なもので、自然科学ならびに人間社会の発展に大きく寄与しています。 化学者の果たすべき役割は今後もますます増大するでしょう。化学は物質科学の中核をなす学問です。 本化学専攻ではそのような化学の基礎となる以下のような研究と教育を行っています。
無機化学講座
この分野では分析化学、無機化学、および放射化学の研究を行っています。分析化学グループでは、分子や微粒子の分離と検出法の研究を行っています。生体や環境中には様々な微粒子が分布し、界面反応が機能しています。そのような界面反応の特異性を明らかにするために、液液界面における単一分子や集合錯体の反応を研究し、レーザー光、電場、磁場を用いる新しい泳動分析法の開発を進めています。無機化学研究グループでは、金属イオンやπ共役系中の様々な種類の角運動量を持つ電子が織りなす現象を研究しています。化学的手法に基づいて多種電子系の構築を行い、磁場印可・円偏光照射によって生じる新しい分子磁性現象とそれらの制御方法を探索しています。錯体化学研究グループでは単核から多核と多彩な構造をもつ新しい金属錯体を合成し、固体や溶液中における化学結合および立体構造と化学的性質との関係を明らかにすることを目指しています。さらに、錯体独特のキラル挙動や分子認識を研究しています。放射化学グループでは、重・超アクチノイド元素の合成とその化学的性質の研究や重イオン核反応や新規核現象の研究を行っています。また、放射性物質の医学利用などの応用研究も進めています。生物無機化学研究グループでは、生体系において重要な役割を演じる金属タンパク質や金属酵素の構造と機能の研究、およびそれらの金属活性部位のモデル金属錯体の構築、さらにモデル錯体とタンパク質金属中心との構造や性質の比較検討も行っています。
物理化学講座
この分野では物質の構造、性質、反応の実験的研究、そしてそれらの理論的解析を行っています。物性物理化学グループでは分子性電荷移動塩、金属錯体などを対象に新規物性の探索と、その電子レベルでの理解、さらに背後にある普遍的な概念の構築を目指した研究を行っています。熱、磁気・輸送現象測定など様々な測定手法を用いて分子の凝縮相としての特徴を追跡しています。表面化学グループでは、ナノサイズの装置内や、その表面で起こる反応を制御して新しい分子機能の探索をおこなっています。この研究では、走査型プローブ顕微鏡、電子分光法、半導体デバイス、特定測定装置など、様々な表面科学の手法を使っていきます。吸着化学グループでは、固体内部に形成されるミクロな空間に閉じ込められた分子集団が示す特異な構造、相挙動、拡散現象などを、核磁気共鳴分光法をはじめとする分光学的手法を使って調べています。空間の大きさや形状と分子間に働く相互作用との関係を明らかにすることで、新しい機能をもった分子集合体の創製を目指します。物性や反応を量子力学の原理に基づいて研究する量子化学理論グループでは、スーパーコンピューターと多数のワークステーションを駆使して、新物質の設計や新現象の機構解明、生体物質に見られる特異な機能の理論的解明を行っています。これらの理論計算に必要な新しい方法論の研究にも取り組んでいます。反応物理化学グループでは、走査プローブ顕微鏡の新しい手法を開発し、単一分子からナノスケールの反応ダイナミクスを解明しています。さらに単分子の反応や物性に基づく少数分子素子を構築し、バルクの分子集合体とは異なる新しい機能の発現を目指しています。学際化学講座の生物物理化学グループでは、タンパク質の立体構造とそのダイナミクスを時間分解振動分光法を用いて研究しています。タンパク質の動きをリアルタイム観測することによって機能発現の分子メカニズム解明に挑んでいます。附属熱・エントロピー科学研究センターでは、独自の精密熱科学を分子科学や構造科学へと展開し、多体系を対象としたミクロとマクロの融合分野を開拓しています。特異な固体や吸着単分子膜など新奇凝縮相で見られる同位体置換効果や量子効果を、熱測定や中性子散乱、X線解析などをもとに体系化しようとしています。
有機化学講座
生体を構成し生命を維持する天然有機化合物や私たちの日常生活に役立つたくさんの人工有機化合物が有機化学の研究対象です。機能分子材料研究グループでは、機能分子を設計・合成・材料化し、物質中における機能分子の動きや集合を制御することで、光・電子・力学的な物性を操る研究をしています。ナノスケールからマクロスケールに至る幅広い領域を対象とした物質化学研究を進めています。構造有機化学研究グループでは、分子量の比較的大きい新規な拡張型パイ電子系化合物や人工超分子の合成を行い、それらの構造と物性・機能の相関を研究して興味ある新物質の開発を目指しています。また、これらの共役分子の新しい合成法の開発も研究しています。生体分子化学研究グループでは、生体膜を構成する分子や、生体膜に作用する生物活性分子を対象にして、それらの三次元的な構造とはたらきを主にNMRという手法を使って明らかにする新しい方法を中心に研究しています。有機生物化学研究グループでは、糖鎖および糖タンパク質を精密に化学合成する方法を開発するとともに、得られた糖タンパク質を用いて生化学的、および有機化学的な方法を組み合わせて糖鎖の機能を調べる研究をおこなっています。学際化学講座に所属する天然物有機化学研究グループでは、生体のなかの糖分子と脂肪酸などが結合してできている複合糖質と呼ばれる化合物群を中心に、さまざまな作用を示す自然界の新しい化合物を探索して、その構造、合成ならびに生体における働きを研究しています。
これらのグループのほかに協力講座として、産業科学研究所にバイオナノテクノロジー研究室、精密制御化学研究室、複合分子化学研究室、分子システム創成化学研究室、金属有機融合材料研究室の5研究グループ、蛋白質研究所に蛋白質有機化学研究室、膜システム生物学研究室、計算生物学研究室の3グループ、放射線科学基盤機構に同位体化学研究室、粒子ビーム化学研究室、放射線化学研究室、放射線化学生物学研究室の4グループ、フォアフロント研究センターに先端質量分析学研究室、放射線生物化学研究室の2グループがあります。さらに、連携講座として国立研究開発法人産業技術総合研究所の3研究グループと(株)ペプチド研究所、公益財団法人サントリー生命科学財団生物有機科学研究所があります。 それぞれの研究分野で活発な研究活動が行われており、さらに詳しい内容は次の各研究室紹介をご覧ください。