装置の整備 2

温度可変インサート中で使用可能な
Φ 27 mm希釈冷凍装置の整備と
0.1 – 10 Kの連続熱容量測定

超伝導現象のような物質の量子性に由来する現象を検出したり,その起源を理解するうえで,熱容量測定は非常に有用な手段の一つです.しかし,そのような現象は 1 K を下回るような極低温領域で現れることが多く,検証を行うにはまず極低温測定環境を達成することが重要となります.これまでに我々は研究室所有の超伝導マグネットに取り付けた VTI(Variable Temperature Insert)に挿入することで手軽に使うことができる小型希釈冷凍機の改良を行い,およそ 0.1 K から 1 K までの測定が行えるようになりました(2010年 装置の整備 2).これにより,迅速な試料の着脱,最低温度への到達が可能となり,1 K 以下の極低温で磁気転移,超伝導転移を示す有機磁性超伝導体や空気中で酸素等を吸着するため,試料のセットアップが困難であったナノグラフェンの測定が可能になりました.今回,この小型希釈冷凍機の低温での測定環境の向上,及び 10 K 程度の高温域への連続測定を可能にするためさらに改良を進めたので報告します.

希釈冷凍機温度での測定の安定性を阻害する原因として,ヘリウムガスを循環させるためのポンプから生じる電気的なノイズ,及びポンプの振動などが考えられます.前回までは主にカロリメトリーセルの改良を主として,サンプルステージと熱浴とを結ぶ緩和線を追加することで,サンプルステージの振動を軽減するなどの処置を行いました.今回はさらに小型希釈冷凍機に繋がっている外部ポンプやハンドリングシステムとの接続部分の改良を行いました.改良点として,ポンプと冷凍機をつなぐフレキシブルチューブの長さを十分にとり,中間で固定することで外部からの振動をさらに軽減し,加えて,冷凍機とポンプを繋げる箇所に絶縁リングを用いることで希釈冷凍機のインサート部分を外部から電気的に独立した環境にすることで電気的なノイズを取り除きました.

Photo. 1
Photo. 1. Photo of top-loading type dilution insert.

Fig. 1 Fig. 1. A result of continuous heat capacity measurement from 0.1 K to 10 K using top-loading type dilution refrigerator.

装置の外観を Photo 1 に示します.Φ 27 mm の極細の外径ですが断熱にも問題なく mixing chamber の温度は75 mK程度まで下がります.1 K 以下での測定結果を Fig. 1 の inset に示します.今回も希釈冷凍機,及びカロリメトリーセルの有用性の評価を行うため,試料は載せずに測定を行いました.Fig. 1 の結果からもわかるとおり,滑らかな熱容量の曲線が得られていることが分かります.各温度での熱容量が以前よりもばらつきが小さくなり,ノイズが確実に軽減されていることが分かりました.

次に高温領域への測定範囲の拡張を行った結果を Fig. 1 に示します.以前までは,最低温度(0.1 K)までの測定を行うために,mixing chamber とカロリメトリーセルを銀箔でつなげることで,冷却能力を確保していましたが,今回の測定環境の改善により,銀箔で繋げなくても,0.1 K まで温度が下がることが確認されました.これは,電気的ノイズを遮断したことでリークカレントによる発熱が抑えられたことが理由だと考えられます.そのため,これまでは mixing chamber と直接つなげていたため,温度コントロールができずに測定ができていなかった高温領域への連続測定が可能となりました.測定に用いている温度計が KOA 社製の 1 kΩ RuOx 抵抗であるため,感度の問題からわずかに高温域でばらつきが見られますが,10 K 付近までの測定が可能であることが確認できました.

以上の評価から,小型希釈冷凍機を用いることで 0.1 K から 10 K までの連続測定が可能であることが確認できました.しかしながら,ここまでで紹介した結果は無磁場下での測定結果です.これまでに,7 T までの磁場下測定を行いましたが,7 T を印加するとおよそ 0.3 K 以下の低温域で,緩和法測定中の試料ステージの温度の緩和が単緩和ではフィッティングできないことが確認されました.これは温度計と緩和線とをつなぐのに用いたはんだや酸化ルテニウムセンサー中の金属に含まれる核スピンの影響によるものだと考えられます.加えて,高磁場下では温度計の電気抵抗が磁場によって変化してしまうことが報告されています.今後の課題として,高磁場下でも正確な極低温熱容量測定を実現するため,磁場中での温度較正などさらなる改良が必要であると考えています.

(福岡脩平,堀江裕樹,中澤康浩)

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