隔年に開催される表記会合の副題は「Neutron Scattering Spectroscopy and Related Problems」である.今回は筆者にとって3回目の参加となった(本レポート No. 28 および No. 30 参照).ポーランドの中性子散乱研究で指導的な役割を果たしてきた Jerzy Janik 教授(クラクフ核物理研究所)の友人研究者を中心として,科学的な議論だけでなく哲学的な議論を行うという異色の会合である.今年は7月10日(日)〜15日(金)の日程で,4年前と同じザコパネのホテル「SOSNICA」で行われた.25名の講演者と世話役の大学院生を含め,合計50名程度の参加であった.日本からは筆者だけの参加であり,「Distortion of Methyl Group in Solids」と題して1時間の講演を行った.
Janik 教授に初めてお目にかかったのは1990年頃,筆者が中性子実験のために何度かラザフォード研究所に滞在していたときのことで,当時は故 Mayer 博士と別の実験に参加しておられたと思う.考えてみれば,1989年にポーランドが民主化を果たし共和国となったわけであるから,科学者も希望に燃えていた頃かもしれない.その後もセンターとの交流が広がり,現在も続いている.
ひとつ印象深かった話を披露しよう.「Remarks on Physics Education」という講演があり,高校から大学の物理教育に関する各国での問題点を具体的に指摘したものであった.講演後に「科学技術がいかに重要か」という文言にJanik教授が噛みついた.聴衆はしばらく何が問題なのか理解できなかったが,「科学の重要性が語られていない.科学はいったい何のためにあるのだ」という問いかけであった.教授の愛弟子である一人の教授が助け船を出すつもりで「Science for Technology」と言った瞬間,Janik教授はさらに激高してしまった.そういえば,日本でも「科学技術」と言うとき「科学と技術」とは考えない場合が多い.Janik教授は「純粋科学」がいかに大切かを強調したいのであった.
16日(土)は恒例の Janik 教授宅での昼食会に招待していただいた.ここで,今回再会を果たした方々の名前を記しておきたい.Wasiutynski 教授には,Michel 教授と一緒にクラクフ空港で出迎えていただいた.25年来の付き合いの Press 教授には今回もいろいろ議論していただいた.Massalska-Arodz 教授と Arodz 教授の夫妻には最終日の夕食に招待していただいた.これまでにセンターに滞在された Haase 教授,Sciesinski 博士,Krawczyk 博士,Zielinski 博士,Juszynska 博士(今回の会計係),Pelka 博士にも再会できた.一方,高齢のため残念ながら今回から参加できなかった人が多く,世代交代が目に見えてきた印象であった.
(右上)開会の辞を述べる Janik 教授.(左上)Press 教授と議論.(右下)聴衆.(左下)筆者.