我々のグループで発表した,二次元三角格子のスピンフラストレーションに関する以下の論文が2011年の阪大論文100選に選ばれました.我々は,2008年に発表した有機電荷移動塩のMott絶縁体である κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3 がギャップのないスピン液体状態を形成することを熱力学的に検証しました.この論文では,この κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3 とは異なり,アニオンラジカルの塩である EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2 という2:1の電荷移動塩を対象に熱測定を行い,有機三角格子のスピンフラストレーションについて熱力学的見地からより深く掘り下げました.両者の共通性と相違点を議論し,有機分子のラジカルがつくるスピン液体の状態を総合的に論じました.共同研究者は理化学研究所の加藤礼三先生のグループで,大学院博士課程時代から行ったこの研究の縁で,現在理研に異動して勢力的に研究を行っている山下智史博士が第一著者です.以前の試料よりも遙かに少量の結晶を,カチオンを変えた物質まで含め丁寧に測定しました.スピン液体状態からの励起が,金属のような連続的な分布をもっており,状態密度として検出できることを磁化率と熱容量の対比も含め定量的に実証することが出来ました.
物質中の相互作用に基づく集団励起を分解能よく検出できる熱容量の特徴を生かした研究であり,我々としても,このような分子性化合物の量子現象の理解のために熱測定がいかに重要かを示すことができた論文かと思います.