研究紹介 8

ギブズエネルギー3次微分量で見える
水の水素結合ネットワークの温度変化

水は最も身近な物質でありながら,液体から固体(氷)になるときに体積が膨張するなど,他の物質には見られない特異な性質をもっています.この『水らしい』特異な性質は,水素結合ネットワークの形成が原因であると考えられています.温度上昇や不純物の混入によって,水素結合ネットワークが影響を受け,水の『水らしさ』は次第に失われていきます.そこで温度や濃度の変化で『水らしさ』がどう失われるかを調べるため,いろいろな水溶液について熱力学研究を行っています.

Fig. 1 Fig. 1. Concentration dependence of SVδBE at 25 °C to 70 °C.

Fig. 2 Fig. 2 The relationship between the temperature and the concentration of the top of peak. Filled circles show the present results, and other open symbols previous results.

2–ブトキシエタノール水溶液について,過剰部分モルエンタルピーの濃度微分や体積当たりの定圧熱容量の温度微分など,ギブズエネルギー G の3次微分量に相当する様々な物理量が調べられてきました.これらの物理量の濃度依存性や温度依存性を見ると,ある濃度・温度でピークを示し,その関係を図上にプロットすると1つの線上にのることがわかっています(Fig. 2 の白抜きの印).この線を Koga ラインと呼びます.Koga ラインをよぎった高温側もしくは高濃度側では,水溶液の系全体に広がる水素結合ネットワークが切れ,『水らしさ』がなくなると考えられます.Koga ラインを xB = 0 まで外挿した高温終点では,純水の『水らしさ』がなくなる温度が求まります.しかし,これまでの G の3次微分量は G の2次微分量をグラフ上で微分して得たものなので,大きな誤差を含んでいます.一方,私たちはこれまで G の3次微分量 SVδB の直接測定を行ってきました(No. 31 (2010),研究紹介12).そこで,SVδB のピークを同じグラフにプロットすることにしました.

今回は2–ブトキシエタノール水溶液について温度を変えて SVδBEを測定しました.その結果を Fig. 1 に示します.温度が高くなるにつれてピークの高さが低くなり,その濃度も薄くなることがわかります.SVδBE のピークの温度と濃度の関係を Fig. 2 に示します.●印が SVδBE の直接測定で得られた結果で,今回の結果は,これまでの結果とほぼ一致していますが,一致はよくありません.補外によって純水の性質を推定するには,きわめて重要な領域です.

(吉田 康,古賀精方,稲葉 章)

発 表

吉田 康,稲葉 章,古賀精方 第47回熱測定討論会(桐生)3C1100(2011).

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