大阪大学

大学院理学研究科
高分子科学専攻 高分子材料設計学

研究テーマ - Research Theme

外部刺激による超分子錯体の構造制御

trans-スチルベン β-CDダイマーとゲストダイマーを用いて可逆的に超分子錯体の構造制御が試みられた。D2O中で両者を混合すると超分子錯体形成が示唆され、得られた錯体に350nmの光照射を行ったところ、Stilbeneの異性化が観察された。光照射前後の超分子錯体の分子サイズは光照射前の方が拡散係数が大きく(分子サイズが小さい)、光照射後には濃度に依存して拡散係数の減少が観測された。このことから、光照射前には挟み込み型の超分子ダイマーを形成し、光照射後には超分子ポリマーに変化する超分子錯体系の構築に成功した。

光刺激による超分子構造体の構造変化

Kuad, P.; Miyawaki, A.; Takashima, Y.; Yamaguchi, H.; Harada, A.
External Stimulus-Responsive Supramolecular Structures Formed by a Stilbene Cyclodextrin Dimer
J. Am. Chem. Soc. 2007, 129 (42), 12630-12631.

α-CD の3位にゲスト分子としてtrans-スチルベンを1つ導入した修飾 α-CD を用いて超分子錯体を形成し、その超分子の構造制御に成功した。trans-スチルベン修飾 α-CD は水溶液中は差し違いダイマーを形成していることが単結晶X線構造解析により明らかとなった。さらに光照射によってcis化したcis-スチルベン修飾 α-CD は濃度変化1H-NMR測定の結果からスチルベン部位のピークシフトが観測され、CDスペクトル測定によりカップリングが観測された事から、分子間で超分子を形成していることが示唆された。しかし 2D ROESY NMR測定からはスチルベンと α-CD の内部のプロトンとの間に相関は観測されず、trans体とは異なり、cis体は包接を介さずスチルベン同士がスタックした超分子を形成していることが示された。このように光により超分子錯体の構造制御が可能である事が明らかとなった。

スチルベン修飾 α-CD により形成された超分子錯体の光構造制御

Yamauchi, K.; Takashima, Y.; Hashidzume, A.; Yamaguchi, H.; Harada, A.
Switching between Supramolecular Dimer and Non-Threaded Supramolecular Self-Assembly of Stilbene Amide alpha-Cyclodextrin by Photoirradiation
J. Am. Chem. Soc. 2008, 130 (15), 5024-5025.

末端のCDのグルコピラノースユニットの回転運動を通した輪分子のシャトリングの観察

CDにアルキル鎖を修飾した化合物を軸分子としロタキサンを合成した。従来のロタキサンでは輪分子のシャトリングは軸分子と輪分子の相互作用により制御されていたが、本系では軸分子のCDがストッパーとして単に嵩高いだけでなく、軸分子を取り込む機能を利用して、輪分子のシャトリングの変化を観察した。
その結果、[2]ロタキサンでは、メタノールおよびDMSO-d6中でローターはアルキル鎖を包接していた。一方、水中では、ローターはスチルベン部位を包接し、ストッパーのCDの一部のユニットが宙返り(タンブリング)を起こし、アルキル鎖を包接していた。従来のシャトリングの制御方法として、軸分子とローターの相互作用によりシャトリングを制御するものであった。本系ではローターにCDを、ストッパーとして単に嵩高いだけでなく、軸分子を巻き取る機能を利用して、ロタキサンのシャトリングの制御することに成功した。(下図参照)

末端のCDの宙返りを利用した輪分子のシャトリング制御

Yamauchi, K.; Miyawaki, A.; Takashima, Y.; Yamaguchi, H.; Harada, A.
A Molecular Reel: Shuttling of a Rotor by Tumbling of a Macrocycle
J. Org. Chem. 2010, 75, 1040-1046.

CDダイマーのグルコピラノースユニットの回転運動を通した[1]ロタキサンダイマーの観察

超分子化学の発展と伴に様々なホスト化合物が世の中に登場した。カリックス[n]アレーンはCDと並ぶ代表的なホスト化合物であり、そのユニットは宙返り(タンブリングまたはフリップ)することが知られている。CDも水酸基をメチル化された化合物は宙返りすることが報告されている。一方で未修飾のCDはグルコピラノース間の水素結合形成により、グルコピラノースは宙返りしないと考えられてきた。私たちはCDの直近に柔軟なアルキル鎖を修飾したαCDダイマーの構造についての詳細な検討を行った。
この結果はアルキル鎖がCD空洞内に引き込まれ包接錯体を形成したのではなく、グルコピラノースユニットの宙返りによって実現されたpseudo[1]ロタキサンダイマーであると考えられる。速度論的解析の結果、宙返りの速度は6.58?10-4 s-1 (288 K)であり?Go = -8.1 kJ?mol-1 (288 K) であることが明らかと成った。また非包接状態のαCDダイマーから包接状態のpseudo[1]ロタキサンダイマーへの構造変化には高い活性化自由エネルギー(?G‡288K = 88.0 kJ?mol-1)を必要とする。これは、αCDが持つ水酸基間の水素結合を切断し、グルコピラノースユニットの宙返りするのに必要なエネルギーであると考えられる。(下図参照)

長鎖アルキル基により架橋されたCDダイマーのグルコピラノースユニットの回転運動を通した[1]ロタキサンダイマーの形成

Yamauchi, K.; Miyawaki, A.; Takashima, Y.; Yamaguchi, H.; Harada, A.
Switching from altro-α-Cyclodextrin Dimer to pseudo[1]Rotaxane Dimer through Tumbling
Org. Lett. 2010, 12, 1284-1286.

Social Self-Sorting 型超分子錯体

CDの二級水酸基の置換位置により、形成される超分子錯体の構造が異なるのではないかと考え、桂皮酸を α-CD の二級水酸基の2位または3位にエステル結合にて導入し、超分子錯体形成挙動について調査した。
その結果、2位または3位に修飾された桂皮酸エステルが転位反応を示すだけでなく、単独状態と混合状態により形成される超分子錯体が異なるといった興味深い挙動を示した。

Tomimasu, N.; Kanaya, A.; Takashima,Y.; Yamaguchi, H.; Harada, A.
Social Self-Sorting: Alternating Supramolecular Oligomer Consisting of Isomers
J. Am. Chem. Soc. 2009, 131 (34), 12339-12343.

光刺激に応じた超分子ポリマーの配列制御

単糖におけるアシル基転位反応は広く知られているが、α-D-グルコースを構成ユニットにもつ環状オリゴ糖であるシクロデキストリン(CD)のアシル基転位反応についての詳細な報告はない。本研究ではアシル基としてαCDと会合定数の高いスチルベンをその二級水酸基に導入したところ、アシル基の転位反応によって生じる化合物のそれぞれが異なる超分子錯体を形成していることが明らかとなった。さらに今回、スチルベンの異性体に応じて転位速度が異なり、この速度が超分子構造に影響を受けていることを観察した。
超分子錯体形成によってアシル基の転位反応が抑制されることが示された。そこで、形成される超分子錯体の構造を調べるために 2D ROESY NMR 測定を行ったところ、2-StiO-αCDと3-StiO-αCDの混合溶液中においても同じ異性体同士(2-StiO-αCD 同士、及び3-StiO-αCD 同士)でホモ超分子錯体形成をすることが明らかとなった。(下図参照)

Kanaya, A.; Takashima, Y.; Harada A.
Double Threaded Dimer and Supramolecular Oligomer Formed by Stilbene Modified Cyclodextrin? Effect of Acyl Migration and Photo Stimuli
J. Org. Chem. 2011, 76, 492-499.

挿し違いダイマー

シクロデキストリンを用いた超分子錯体の外部刺激による構造制御

CDの超分子錯体にて動的挙動を観察するために、桂皮酸修飾部位をアルキル鎖にて伸張した修飾CD合成し、水中にて挿し違い型ロタキサンダイマーを形成させた。その後、ストッパー分子を導入し、有機溶媒中においても解離しない挿し違い型ロタキサンダイマーを得ている。その伸縮挙動は溶媒極性の変化によりCDの包接位置が変化した。

溶媒の極性変化により、収縮するロタキサンダイマー

Tsukagoshi, S.; Miyawaki, A.; Takashima, Y.; Yamaguchi, H.; Harada, A.
Contraction of Supramolecular Double-Threaded Dimer Formed by α-Cyclodextrin with a Long Alkyl Chain
Org. Lett. 2007, 9 (6), 1053-1055.

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