大阪大学

大学院理学研究科
高分子科学専攻 高分子材料設計学

研究テーマ - Research Theme

CDを用いた超分子触媒

シクロデキストリン (CD) は、その空孔内部に基質分子を取り込み、基質の起こすエステル加水分解などの反応を触媒することが知られています。これまでに、CD による酵素触媒モデル系が多く研究されてきましたが、これらの反応は、基質自体に高い反応性や厳しい反応条件が必要であったり、基質に対して大過剰量の CD が必要とされるため、これまで有機合成触媒として利用されることはありません。我々は CD のエステル結合に対する反応性を重合反応に利用できないか?と考え、水中にてポリエステルのモノマーであるラクトンを混合し、反応を行いましたが、ラクトンの加水分解反応が促進または抑制されるのみでした。

Takashima, Y.; Kawaguchi, Y.; Nakagawa, S.; Harada, A.
Inclusion Complex Formation and Hydrolysis of Lactones by Cyclodextrins
Chem. Lett. 2003, 32, 1122-1123.

そこで我々は CD と環状エステルを水のない系で反応させれば、加水分解ではなく、ポリエステルの合成が行えるのではないかと考え、CD による環状エステルの開環重合を試みました。乾燥した CD にポリエステルのモノマーであるラクトンを固相で混合し、100℃に加熱することで、高い収率でポリエステルを得ました。従来のラクトンの重合にて用いられる強力な反応性を有する有機試薬を用いなくとも、助触媒も必要とせず、固相中にて混合するだけで重合が進行します。これは CD の空孔が酵素のように反応場となっているため、反応場に取り込まれた分子のみが反応することが明らかとなりました。さらに得られたポリマー鎖は CD に一本のみ結合した構造である事が明らかとなりました。

Takashima, Y.; Osaki, M.; Harada, A.
Cyclodextrin-Initiated Polymerization of Cyclic Esters in Bulk: Formation of Polyester-Tethered Cyclodextrins
J. Am. Chem. Soc. 2004, 126 (42), 13588-13589.

Osaki, M.; Takashima, Y.; Yamaguchi, H.; Harada, A.
Polymerization of Lactones Initiated by Cyclodextrins: Effects of Cyclodextrins on the Initiation and Propagation Reactions
Macromolecules 2007, 40 (9), 3154-3158.

CD に光異性化が可能な置換基を導入し、置換基の構造変化によりモノマーの包接を制御することによって重合活性の制御を試みました。置換基である桂皮酸がトランス体の場合、CD はラクトンに対して重合活性を示したのに対し、桂皮酸がシス体の場合、重合活性は大きく抑制されました。これは CD の空孔をシス体の桂皮酸が立体障害となり、モノマーの進入・包接を阻害した為と考えられます。

Osaki, M.; Takashima, Y.; Yamaguchi, H.; Harada, A.
Switching of Polymerization Activity of Cinnamoyl-alpha-Cyclodextrin
Org. Biomol. Chem. 2009, 7, 1646 - 1651.

この重合において、活性種である CD だけでなく、成長したポリマー鎖のコンフォメーションを制御することも重合反応において重要で、生長するポリマー鎖はほかの CD によって包接されていました。このように、生長反応点となる CD とポリマー鎖を包接する CD の2つのCDが重要であることが判りました。まさにポリロタキサンの形成が重合活性に重要である事が明らかとなりました。

Osaki, M.; Takashima, Y.; Yamaguchi, H.; Harada, A.
An Artificial Molecular Chaperone: Poly-pseudo-rotaxane with an Extensible Axle
J. Am. Chem. Soc. 2007, 129 (46), 14452-14457.

Harada, A.; Osaki, M.; Takashima, Y.; Yamaguchi, H.
Ring-Opening Polymerization of Cyclic Esters by Cyclodextrins
Acc. Chem. Res. 2008, 41 (9), 1143-1152.

ウイルスの表面は特異的な分子認識部位をもち、球状多層構造を形成している。CD を用いて球状構造を形成できれば、球状分子表面にて重合が行えるのではないかと考え、研究に取り組みました。金ナノ粒子を鋳型にして CD を修飾し、その後、内部の金ナノ粒子をヨウ素にて溶かし、ジスルフィド結合を形成することにより球状分子を構築しました。金ナノ粒子をコアに有する球状分子はラクトンに対して重合活性を有しませんが、内部が空洞の CD 球状分子はラクトンに対する重合活性がある事がわかりました。さらに球状分子表面に生成したポリマー鎖をポリロタキサン構造にすることにより、さらに重合が行える事が明らかと成りました。

Osaki, M.; Takashima, Y.; Yamaguchi, H.; Harada, A.
Nanospheres with Polymerization Ability Coated by Polyrotaxane
J. Org. Chem. 2009, 74 (5), 1858-1863.

CD ダイマーによるラクトンの重合

CD ダイマーを合成し触媒に用いたところ、CD ダイマーは CD モノマーより、さらに活性が高く、高分子量のポリマーを生成した。さらに CD を用いた場合、その生成物を精製してさらに重合を試みたところ、活性はみられなかったが、CD ダイマーを用いて得られた生成物(ポリマー)を触媒として、さらにモノマーを加えて重合を試みたところ、さらなる重合が進むことを見出した、これは CD ダイマーの一方が重合活性点として働きもう一方が生成したポリマーを引き出す役割をしているためであることを見出した。この役割はDNA重合酵素のクランプの働きに酷似している。CD ダイマーを用いることにより、分子量が数万のポリエステルを得ることができた。(下図参照)

ダイマーによるラクトンの重合

Takashima, Y.; Osaki, M.;Ishimaru, M.; Yamaguchi, H.; Harada, A.
Artificial Molecular Clamp: A Novel Device for Synthetic Polymerases
>Angew. Chem.,Int. Ed. 2011, 50, 7524-7528.

CD-Ruホスフィン触媒によるメタセシス重合

近年、水系での有機反応を行う超分子触媒が求められており、本研究では基質の認識部位および触媒の活性化部位を有する超分子触媒の合成を行い、水中での重合反応を試みた。基質の認識部位としてシクロデキストリン (CD) を基本骨格としたジシクロヘキシルホスフィン配位子を有するルテニウム錯体を合成し、水系での開環メタセシス重合の活性について検討した。
下図に示すように βCD にホスフィンを結合し、Ruを配位させた化合物を合成し、ノルボルネン誘導体の開環メタセシス重合 (ROMP) を行った。[モノマー]/[触媒] = 100で重合を行ったところ重合反応が進行し、ポリマーが得られた。有機溶媒中での反応と比べ PCy2-Ru-βCD を触媒として用いた重合では、ポリマーの収率および分子量は向上することがわかった。代表的な ROMP 触媒である RuCl3・3H2O および RuCl3・3H2O と tris(3-sulfonatephenyl)phosphine hydrate, sodium salt (TPPTS) との錯体を比較した結果、同条件下での重合反応においても重合反応は進行しなかった。モノマーよりも強く相互作用する競争ゲスト(アルコールやアダマンタンなど)を添加し重合することによって、重合反応の阻害が確認され、PCy2-Ru-βCD の有する CD 部位が重合反応に対して有効に作用することがわかった。

CD-Ruホスフィン触媒を用いた7-オキソノルボルネンジメタノールの開環メタセシス重合

Takashima, Y.; Uramatsu, K.; Jomori, D.; Harima, A; Otsubo, M; Yamaguchi, H.; Harada, A
Ring-Opening Metathesis Polymerization by a Ru Phosphine Derivative of Cyclodextrin in Water
ACS Macro Lett. 2013, 2, 384-387. (DOI: 10.1021/mz4001942)

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