MENU

研究概要

研究の興味

~タンパク質の不思議への挑戦~

タンパク質は生命活動の現場で働く分子です。細胞の中で、それぞれのタンパク質は特有の機能を担い、実に巧妙(高効率、高選択的)に働いています。このしくみを知りたいというのが私たちの興味です。

タンパク質の構造変化と機能発現

生命現象はダイナミックです。そのダイナミズムの源泉は、生体分子のダイナミクスにあります。特に、タンパク質は生命現象のさまざまな化学反応に関わっている分子であり、そのダイナミズムを支える中心といえるでしょう。私たちは、タンパク質が機能する際のタンパク質の動き、つまり分子構造の変化をできるだけ詳しく観測することで、機能するしくみを明らかにしようとしています。これは、機械の歯車やレバーの動きを観察して、機械の働くしくみを調べることに似ています。タンパク質という分子マシンに起きる変化の各ステップをつぶさに観測していけば、タンパク質の機能を生み出すしくみを理解でき、さらには生命現象に対するわれわれの理解を深めるにちがいありません。

分子の科学としての面白さ

構造変化と機能との関係は、分子の科学としても面白い問題です。タンパク質が機能する際には、分子内のある場所に起きた構造変化が、ドミノ倒しのように、何十オングストロームも離れた別の場所に構造変化として伝わるということがよくみられます。タンパク質の複雑な分子構造を目の前にすると、なぜそのようなことが可能なのか不思議に思えます。ドミノ倒しのイベントでしばしばあるような、途中で動きが止まってしまったり、予定と違う方向に倒れてしまったりということはタンパク質には起きません。一見複雑そうに見えるタンパク質の構造の中には、構造変化を確実に伝える原理があるのです。

化学の進展によって、化学者はある機能を持った分子を設計し、それを実際に合成することができるようになりました。しかし、複数の機能性分子を組み合わせ、互いに連動するような分子システムをつくることはいまだに非常に困難です。それは技術的に合成することがむずかしいということでなく、連動させる原理がわからないためです。原理がわからなければ設計のしようがありませんから。

タンパク質の機能するしくみが理解できれば、それは連動性をもった分子システムを設計する大きなヒントを与えてくれるはずです。物理化学はこれまで比較的小さな分子を対象に進んできました。しかし、タンパク質にみられる連動性は、小さな分子の研究だけではわからない分子の新しい特質を教えてくれるでしょう。このように、タンパク質の構造化学は機能発現機構の理解と直結しており、タンパク質科学としても物理化学としても興味深い問題なのです。

私たちが目指すこと

生物物理化学研究室では、タンパク質の構造変化が生み出す機能発現機構の解明を目指し、時間分解分光法を用いて、タンパク質のピコ秒からミリ秒にわたる多彩なダイナミクスについて研究を行っています。また、時間分解分光法の特徴をタンパク質研究にフルに活用すべく、新しい分光手法の開拓、分光装置の開発をあわせて行っています。さらに、機構解明に基づいて新しい機能を持った人工タンパク質を創製するという新たな挑戦を私たちは始めています。

研究テーマ

アロステリックタンパク質の構造化学

ヘモグロビンに代表されるアロスリックタンパク質は、その高次構造を巧みに変化させ機能しています。したがって、「タンパク質はどのように構造変化するのか」、また「なぜそのように構造変化するのか」を明らかにすることは、「なぜタンパク質は高効率に機能するのか」という問いに答える最もストレートなアプローチです。アロスリックタンパク質では、局所的な構造変化が機能発現に重要な高次構造変化を誘起します。この構造変化の伝播を直接観測することができれば、タンパク質の働くしくみについて理解が大きく深まるに違いありません。このような興味から、ガス輸送タンパク質、ガスセンサータンパク質、光センサータンパク質、光駆動イオン輸送タンパク質などについて、タンパク質の構造変化と機能発現機構との関係を研究しています。

物理化学に基づいたタンパク質の機能設計

タンパク質の機能発現機構を研究していると、その巧みさに驚くばかりです。同時に、明らかになった機構から、天然にはない機能をもったタンパク質を設計するアイディアが浮かびます。わたしたちは、機構の理解に基づいてタンパク質を設計し、新しい機能を持った人工タンパク質を創るという研究を行っています。現在取り組んでいるのは、さまざまな外部因子(電子、光、低分子など)によって活性を制御する酵素、光やガス分子によって会合状態を制御するタンパク質、タンパク質分子ヒーターなどです。これらの研究は、新しい分子を創るという意義のみならず、設計したタンパク質が設計通りに働くかどうかを検証することによって、機能発現機構に対するわたしたちの理解の正しさを最も厳密に確かめることができるという意義を持ちます。

時間分解分光法の開拓

時間分解分光法は、時々刻々変化する分子について、さまざまな種類の情報をわたしたちに与えてくれます。振動スペクトルからは化学結合レベルでの詳細な構造情報を、吸収、蛍光スペクトルからは電子構造に関する情報を得ることができます。このような時間分解分光法の特徴を、化学研究にフルに活用するには、新しい分光装置を開発し、分光法の可能性を開拓していく努力が必要です。わたしたちはこのような問題意識から、新しい分光装置の開発を行っています。そして、そのように開発した装置を使うことによって、

  • 分光法の特色をシャープに生かした面白い研究
  • 「ここでしかできない」独創的な研究

を展開していきたいと考えています。