研究の概要2
2. 機能性ポリマーの創製に向けた分子設計と精密合成
1.で示したように,リビングカチオン重合では様々な性質を有するポリマーが合成でき,これらの性 質の異なるポリマーを組み合わせることで新しい機能性ポリマーを合成することが可能である。ここでは,機能性ポリマーの創製に向 けた分子設計とその特性について,いくつか例を挙げて紹介する。
POEVEは,オキシエチレン鎖を有するビニルエーテルのポリマーであり,水中において,低温では 水和して溶解しているが,ある温度(曇点)以上で高感度に相分離するポリマーである。このPOEVEと疎水性ポリマーから成るブ ロックコポリマーの高濃度水溶液は,温度に応答して高感度かつ可逆的なゾルーゲル転移を起こす (左下図)。このような挙動はブロックコポリマーでのみ起こり,ランダムコポリマーでは見られない。また,二種類の異なるPOEVEから成るブロックコポ リマーはそれぞれのホモポリマーの曇点で段階的に応答性を示すが,ランダムコポリマーではその中間の温度で応答性を示す (右下図)。
このように,ポリマーの温度応答挙動をシークエンスの制御によって変化させることが出来るため,機能性ポリマーの合成に応用するこ とが出来る。
続いて,生体に対するポリマーシークエンスの影響に付いて紹介する (ミシガン大・黒田先生との共同研究)。自然界では,カチオン性基と疎水性基を有するペプチドがバクテリアの細胞膜を破壊し,優れた抗生物質としてはたら いている。そこでこの機能を模倣し,生体適合性の高い抗菌性ポリマーを開発するための分子設計指針を得るために,カチオン性ユ ニットと疎水性ユニットのシークエンス分布 (ランダム,ブロック) が抗菌活性と生体適合性に与える影響を調べた。
その結果,同じ分子量と疎水性含量 (組成比) で比較した場合,ランダムコポリマーはバクテリア細胞膜と人の赤血球のいずれも破壊したのに対し,ブロックコポリマーではバクテリア細胞膜のみを破壊し, 人の赤血球細胞は破壊せず, 選択的抗菌活性を示すことが明らかとなった。
-関連する報告論文-
・温 度応答性ポリマーの精密合成と高感度ゲル化挙動
・シー クエンスの異なる両親媒性ポリマーの抗菌活性 (ミシガン大学との共同研究)