研究の詳細
1- A. 新しいリビングカチオン重合系の開発
一般に,リビング重合は通常の重合よりも遅くなることが知られている。しかし,当研究室で用いてい る添加塩基存在下でのカチオン重合では,適切な添加塩基(エステル,エーテル)とルイス酸を組み合わせることでリビング重合の速 度を増大することができる。例えば,イソブチルビニルエーテル(IBVE)の重合を,酢酸エチル(添加塩基)存在下,開始種とし てIBVEのHCl付加体を用い,ルイス酸にSnCl4を用いると,従来のEtAlCl2の 系に比べて1000倍から10万倍の範囲で重合が加速された。しかも,得られたポリマーの分子量分布は1.05以下と極めて狭 い。このような開始剤系を用いると,アルキルVEだけでなく,O(エステル)やN(アゾ)を側鎖に有する極性モノマーの重合も 1000倍以上に加速されることがわかった。さらに,より弱い添加塩基であるクロロ酢酸エチルを用いると,重合はわずか1〜3秒 で終了し,著しく重合が加速されたにもかかわらず,生成ポリマーの分子量分布は非常に狭く,超高速リビング重合が進行した。
-関連する報告論文-
・SnCl4を 用いた超高速リビングカチオン重合
・種々 のルイス酸触媒を用いたビニルエーテルのリビングカチオン重合 (Open Access)
1- B. 酸化鉄を不均一系触媒に用いたリビングカチオン重合
従来,リビングカチオン重合の触媒には可溶性のハロゲン化金属が主に用いられており,不均一系触媒
を用いたリビング重合は達成されていなかった。しかし,当研究室では酸化鉄(Fe2O3,Fe3O4;
いわゆる“鉄さび”の主成分)を触媒とし,添加塩基と組み合わせることで,ビニルエーテルのリビングカチオン重合が進行すること
を見出した。酸化鉄を触媒に用いた本系は,触媒が安価で非毒性であるという他に,遠心分離や磁石による容易な回収,再使用が可能
であるというメリットがある。実際に,重合後に回収した酸化鉄を重合触媒として再使用したところ触媒活性を維持しており,再度リ
ビング重合が進行した。
また最近では,磁性細菌が合成した酸化鉄や,生体プロセスを模倣した方法で合成した酸化鉄を用いた場合でも,同様にリビング重
合及び触媒の再使用が可能であることがわかった (新学術領域研究「融合マテリアル」での共同研究)。
-関連する報告論文-
・酸 化鉄を不均一触媒に用いたリビングカチオン重合
・磁 性細菌由来の酸化鉄を用いたリビングカチオン重合 (新学術領域 "融合マテリアル" における共同研究)