研究の詳細
6. ビニルエーテルとオキシランのビニル付加・開環カチオン共重合
ここでは重合機構の異なるモノマー間での共重合について紹介する。ビニルエーテルはビニル付加,オ
キシラン(エポキシド)は開環により重合が進行するモノマーである。従来,これらのモノマーを用いて共重合を検討した場合,単独
重合体の混合物が得られてしまい,共重合体は生成しないとされてきた。共重合が進行しない原因の一つは,オキシランの開環により
生成するオキソニウムイオン生長種へのビニルエーテルの付加が起こらないためである。加えて,それぞれのモノマー由来のドーマン
ト種(共有結合種)の反応性(共有結合の開裂のしやすさ)が異なると全ての生長鎖が等しく反応しないため,ドーマント種を生成し
ないようなルイス酸触媒を用いて開始剤系を設計する必要がある。
本研究では,イソプロピルビニルエーテル
(IPVE)と,開環した際に比較的安定な三級の炭素カチオン種を生成する可能性のあるイソブチレンオキシド (IBO)
を用いて共重合を検討した。その結果,適切な温度・溶媒条件下, B(C6F5)3を
ルイス酸触媒として用いることで効率よくクロスオーバー反応が起こり,共重合体が生成した。1D,2D
NMRによる解析に加え,クロスオーバー反応により生成するアセタール構造の酸加水分解後に分子量が数分の一に減少したことから,1本鎖あたり複数回のク
ロスオーバー反応が起こって生成するマルチブロック型構造の共重合体であることが示された。このように,適切な反応性・側鎖構造
を有するモノマーを組み合わせ,適切な開始剤系を設計することで,ビニル付加・開環カチオン共重合を達成した。

このような異種共重合系を,選択的な交差生長反応によって進行する三元共重合系にも展開した。上記のIBOなどと異なり,オ キソニウムイオンの開環によって炭素カチオンを生成しないオキシランでは,VEからオキシランへの交差生長反応は進行しても,オ キシランからVE へは進行しない。一方,このような重合系にケトンを加えると,ケトンがオキソニウムイオンと反応することでポリマー鎖に組み込まれることを見出した。加え て,生成しうるケタール構造の不安定性のため,ケトンの単独生長反応や,ケトン由来の生長種に 対するオキシランの反応は起こらな い。これらに基づき,VE,シクロヘキセンオキシド(CHO)などのオキシラン,メチルエチルケトン(MEK)などのケトンのビ ニル付加・開環・カルボニル付加同時カチオン三元共重合が,VE → CHO → MEK → VE → ・・・の一方向の交差生長反応によって進行する系を設計した。

-関連する報告論文-
・ ビニルエーテルとオキシランのビニル付加開環カチオン共重合 (Open Access)
・ 種々のオキシラ ンを用いた共重合
・ 一方向の交差生長からなる三元共重合:じゃんけん共重合 (Open Access)
・ 日本化学会 ディビジョン・トピックスで紹介